自動車の購入は人生で最も大きな買い物のひとつです。消費者は購入前に「実際にどう見えるか」「自分の生活にフィットするか」を確かめたいと考えています。しかし、すべてのカラーバリエーションや仕様を実車で揃えることは物理的・コスト的に不可能です。そこで注目されているのが、アプリ不要でブラウザだけで動作するWebARです。本記事では、自動車・モビリティ業界でのWebAR活用事例と実装方法を詳しく解説します。

自動車×WebARの4つの活用パターン

自動車業界でWebARが活用される場面は大きく4つに分類できます。それぞれの特徴とメリットを見ていきましょう。

1. 3Dカーコンフィギュレーター(カラー・オプション選択)

車両を実物大でユーザーの空間に表示し、ボディカラーやホイールデザイン、内装を自由に変更できる体験です。従来のカタログやWebサイトの2D画像では伝わらなかった「実際のサイズ感」「光の当たり方によるカラーの変化」をリアルタイムで確認できます。スマートフォンのカメラを通して自宅の駐車場や路上に車を配置するだけで、購入後のイメージが鮮明になります。

2. 新車発表会・プレスイベントでのAR演出

プレス向け発表会やモーターショーでQRコードを配布し、来場者全員が自分のスマートフォンでAR体験できる仕掛けです。会場に1台の実車を展示しながら、WebARで複数カラーバリエーションを体験させることができ、展示台数を削減しながら体験の幅を広げられます。

3. ショールームでのデジタルツイン活用

実際のショールームに置ける車種数は限られています。WebARを使えば、店頭に展示していない車種・グレードをその場で体験させることが可能です。営業スタッフがタブレットでWebARページを開き、顧客と一緒に「ガレージに置いたらどう見えるか」をシミュレーションする使い方も広がっています。

4. カタログ・DMへのARマーカー組み込み

紙のカタログや試乗招待DMにQRコードを印刷し、スキャンするとWebARが起動する仕掛けです。紙媒体の信頼感とデジタルの没入感を組み合わせることで、カタログ請求から来店・試乗予約へのコンバージョン率向上が期待できます。

自動車業界のWebAR事例3選

トヨタ:ランドクルーザーの実寸体験AR

トヨタは「ランドクルーザー300」の発売に際し、WebARを使った実寸体験コンテンツを展開しました。ユーザーはブラウザ上でQRコードをスキャンするだけで、実際のガレージや駐車場に実寸大のランドクルーザーを出現させることができます。全長4,985mm・全幅1,980mmという大型ボディのサイズ感を、カタログの数字ではなくARで直感的に体験できる点が好評を得ました。体験者の約68%が「購入意欲が高まった」と回答したとされています。

BMW:8シリーズのWebARコンフィギュレーター

BMWはグローバルで展開するWebARコンフィギュレーターをiOS Safari・Android Chromeの両方に対応させた先進的な事例です。ユーザーは9色のボディカラーと3種類のホイールデザインをリアルタイムで切り替えながら、自宅の駐車場や路上に配置してAR体験ができます。平均セッション時間は通常の製品ページの3.2倍に達し、コンフィギュレーターから試乗予約への転換率が従来比で22%向上した結果が報告されています。

国内ディーラー:来店不要の新車提案ツール

関東圏の大手国産車ディーラーでは、営業担当者がLINEでWebARリンクを顧客に送付するという手法を採用。顧客は自宅にいながら、検討中の車を自宅ガレージや道路に表示して家族と一緒にサイズ感・デザインを確認できます。コロナ禍以降もこの手法を継続し、商談から成約までの平均期間が従来の3.1週間から1.8週間に短縮されたと報告されています。

model-viewerで実現する3DカーコンフィギュレーターのWebAR実装

WebARで自動車の3D表示を実現する際、最も広く使われているのがGoogleが開発したmodel-viewerというWebコンポーネントです。3行のコードで3DモデルをWebAR化できる手軽さが特徴です。

実装の基本的な流れは以下の通りです。まず車両の3DデータをGLBまたはUSDZ形式に変換します。GLBはAndroid・PC向け、USDZはiOS向けのAR形式です。次にmodel-viewerのスクリプトをHTMLに読み込み、ar属性を付与するだけで、iOSではQuick Look、AndroidではScene Viewerという各OSのAR機能が自動的に起動します。

カラー切り替えはJavaScriptのmaterialsプロパティを使い、ユーザーがボタンを押すたびにテクスチャを差し替える方式が一般的です。高品質なカーAR体験を実現するには、PBR(物理ベースレンダリング)マテリアルの設定が重要で、メタリック・ラフネス・環境マップを適切に設定することで、実車に近いカラーの見え方を再現できます。

費用目安とROI

制作内容費用目安期間
既存3Dデータ活用(GLB変換+model-viewer実装)30万〜80万円2〜4週間
新規3Dモデル制作+WebAR実装100万〜300万円6〜12週間
カラーバリエーション追加(1色あたり)5万〜15万円1〜2週間
マルチモデル対応(複数車種展開)200万〜500万円2〜4ヶ月

ROIの観点では、試乗予約CVRの改善(業界平均+15〜25%)、商談期間の短縮(平均30〜40%削減)、カタログ・展示コストの削減(年間50万〜200万円程度)が主な効果として報告されています。ディーラー向けの導入では、初期投資を1年以内に回収するケースが増えています。

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